もとみや青年会議所 2024年度 松井理事長

もとみや青年会議所 第38代理事長

松井 久芳 まつい ひさよし

はじめに

人生の岐路に立つ瞬間はいつだって分かりやすく突然やってきます。どういう選択を選ぶかでその先の人生が変わるとは思いません。選んだ選択肢、選んだ自分をいかに信じ続ける事が出来るかで大きく変化すると考えています。選択肢に正しいも間違いも無いのです。

『始まりと思うのも自分、もう終わりだと思うのも自分』

生き方を決めるのは自分自身。そう胸に刻んで生きてきた39 年間でした。と同時に、その言葉に縛られ続けていた人生でもありました。しかし、一度だけ自分を裏切った瞬間があります。それは、もとみや青年会議所に入会を決めた瞬間です。生業としている会社の地域・人々との関わり合い、歴史からもそれは私の意志では抗えない選択肢を選ばざるを得ない状況でした。
JC 入会後は地域の先輩・後輩・同級生と再会する機会が増え、何よりも活動を通してメンバーと多くの時間を共有していく中で、自分自身の気持ちが大きく変化している事に気づきました。本宮に戻り家業を受け継ぎ、子供が産まれ家族と仕事で頭の中が飽和状態のままの4 年間、私は生まれ育って自分の生き方の方向性を与えてくれた“ふるさと”と全く向き合えてなかったのです。私自身を導いてくれたメンバーや“もとみや”という“ふるさと”に対して、少年だった自分が知らぬ間に受けていたように、きっかけを与える立場に自分がなっていることに気が付きました。大前提、その私自身の気づきがJC 活動において最大の原動力となっています。

もとみや青年会議所は本宮市と大玉村の二つの地域を主に活動するメンバーで構成されています。構成メンバーのほとんどを輩出し活動拠点となっている本宮市は、人口減少による地域コミュニティ機能低下や生活を支える地元サービス業の縮小化が地域の課題となっております。一方、大玉村では子育て世代を中心とした若い世代の新規移住者増加により人口減少には歯止めがかかっているものの増加地域の限定集中化、新規移住者と地元住民とのコミュニティ機能の低下、地場産業の中心となっている農業では後継者不足が課題となっています。もちろん、人口減少や後継者不足問題はもとみやだけの課題では無く、日本全体の最重要課題とも言えます。青年会議所は全国それぞれのLOM が地域の課題と向き合うために様々な事業展開をしてきました。私達もとみや青年会議所でも昨年、様々な職業に触れられる体験型事業の 「キッズドリームミュージアム in Motomiya city 」開催し、東北青年フォーラム2023 にて会長特別賞を受賞した、地域の歴史を知り未来を見据えた「未来マンホールデザインコンテスト」など、地域の未来を担う子供・若者、地域の根幹を支え続けてくれた住民の方々に『きっかけ』を提供していく事業展開を行いました。地域の魅力を再認識し、地元にもこんなにやりがい・夢のある仕事があり、時代に沿った新しい働き方がある事を提案することが出来たと思いますし、それが地域に残り、地域を支える人財を作り出すことにつながると信じています。
ただ私は同時に強く望んでいることがあります。私がそうだったように故郷を離れ、また戻って来たときにも変わらない“もとみや”であって欲しいという事です。それは移住をしてきた方々に対しても同じで、“もとみや”というブランディングが必要だと感じていますし、その為には何よりも継続をすることが大切だと考えています。J C としての地域との関わり方、他団体や行政との関わり方、その全てが同じイメージを持って未来に向かっていくことが、実は、地域の最重要課題なのでは無いかと考えています。
私は、単年度制の組織であるJ C において1 年で結果を出す、この1 年で大きく何かが変わるとも変えようとも思っていません。ただ、その最重要課題に向けての一歩を、きっかけを作り出す1年にしようと、理事長としての職を預かり、強い意志を持って臨んでいく所存です。

「この仲間たちともとみやに何か恩返しをしたい」「少年だった自分と同じような子どもたちにも平等にきっかけを与える街でいてほしい」

『自分』というルールで縛られていた私をJ C の仲間たちが導いてくれたように、地域と向き合い一人でも多くの人間のきっかけとなる“もとみや”を構築していくことが最大限の地域貢献であり、私達の責任であると考えています。

地域を先導し変革のきっかけを与える組織づくり

 スマートフォンの定着によるS N S ・動画配信サービスの飛躍的な発展により、インターネットを通じて他者と関わる機会が増え、情報を収集する手段が自由かつ多種多様になり久しい現代において、それと同時に、若者を中心としたコミュニケーション能力の低下が良く取り沙汰されています。ですが、本当にその原因がS N S や動画配信サービスにあるのか、私は常に違和感を覚えていました。いわゆる「リアル」の世界で人間関係を構築するより、S N S を通じて「無難」な人間関係を構築する方がもちろんたやすいです。しかし、それをも凌駕できる、若しくは「リアルとネット」のそれぞれの良さをしっかり線引き出来る基礎自治体や人間、地域が子どもたちのそばにあれば何も問題はないと考えています。
 実際、自分の子供を見ていると、それこそYoutubeの影響から大人顔負けするような言葉を覚えていたり、自分の幼少期と比べてもモノすごいスピードで知恵が身についていたりしますし、何よりも、家族という最小単位のコミュニティの外側をイメージできるツールとして本能的に活用している気がします。一方で、興味のあることや、自分が都合よく解釈出来る情報にしか時間を費やしていないという印象も感じています。
 そこで、一つ私が懸念している事は、その子どもたちや若者のインターネットによる視覚上だけの経験を放っておいてはいけないと感じていることです。私達、地域の責任者たちが子供や若者達の興味をしっかり「リアル」の世界への導線を教示し、実際に触れさせる機会を与えることが必要だと考えています。
それは、最近頻繁に感じるのですが、高齢者の方達に対しても似たようなことを感じます。父がスマートフォンを操作した後に話す疑問や意見、社業にて高齢のお客様に最先端技術が搭載されている商品を説明している時など、ネットの情報や先端技術の機能性を一方的に押し付けられ自分の経験と折り合いがつかず判断出来ずにそのまま何もしないという。子供や若者とは方向性は違いますが、その中間に何かきっかけが無いと結果は同じように見えます。
 ハイブリッド世代の私達は時代の解釈を教示し、先導し、そのきっかけを与える立場にあるのです。そういった私達もとみや青年会議所のメンバー1 人1 人の意識が地域に根付くことで、私達の”ふるさと”はこの先も私達だけでなく、“もとみや”と触れ合った方々にも、きっかけを与え、未来へと意識を向けることができる地域でいられると信じています。

気付きを成長に昇華出来るひとづくり

 人は生まれ、乳幼児から様々な経験を重ねていき、その都度感じた気持ちや痛みを憶えることを繰り返すことで「自分」というものが形成されていきます。具体的には、経験を元に行動に移し、自分を抑制し、他を促すことが出来るようになる幼少期の時点で既に自分というアイデンティティが芽生え、小学校低学年までの数年間で人格が出来上がると考えられています。つまり、この期間に何を経験するかが、その先に生き方を大きく左右するとも言えます。しかし、その経験値はもちろん各家庭や子供において様々ですし、先天的な性格もあるうえ、正に十人十色で、それがいわゆる「個性」と呼ばれるものになります。その個性を主張し続ける事が主な学童期から、家族、学校や地域の人達と触れ合い、他者性受け入れを青年期に入り「大人」になる成長を感じると思います。
 他者と触れ合い、他者から感じた「気づき」を自分に変換し更なる自分という人格を磨く事を繰り返し成熟していくのです。それは根本的には大人になって社会に出てからも同じだと思います。
 ただ、それはあくまで自分個人目線の主観的な理論構成であり、私がもとみや青年会議所としてメンバー並びに地域に提言したいのは、自分が気づいた事やモノを積極的に他者や地域と共有し、コミュニケーションを深めて欲しいということです。事業に参加する地域の人々や、日頃の会議だけでは無く目的を共有し行う事業を通じて触れ合うメンバー、いわゆる「リアル」の現場で他者を受け入れ、自分というフィルターを通しアウトプットし、他者をも成長させる。自分という人間がきっかけとなり、他者や地域に新しい価値観を与え昇華させる事が出来る人こそが先に提示した課題をも解消しうると考えています。
 自分と一緒に他者を次のステージに成長させる意識を常に持ち行動する人を育て、生み出す事業を行い、そして何よりも継続する事が成長の連鎖を産み出す。これが、私達もとみや青年会議所が出来る地域への恒久的な貢献方法だと考えています。

きっかけを平等に与え想像力あふれるまちづくり

 私は3 1 歳の時、福島県に戻り家業を手伝う準備として専門学校に入学し、1 8 歳の同級生たちと2 年間学生生活を送りました。その授業や生活で彼らと触れ合う中の節々でとても気になる事があったのです。それは彼らの想像力が低下している、というよりは、物事を理解する過程で「想像」をするという作業に慣れていないという印象を受けていました。それは、先に述べた話とも重複するのですが、スマートフォンの普及により、なにか疑問が生じた際、すぐ手の中に答えを導き出せる環境にあると考えていました。凄く便利な反面、答えがすぐに手元に映像付きで解釈できることは想像する事さえもやめてしまうという課題が残るのだと感じています。その想像力を補う言葉さえもスマートフォンからそのまま引用しているようでは尚更です。
 1つのきっかけから興味を持ち、目に見えない、得体のしれない好奇心を想像する事で実際に触れ合った瞬間に理解する喜び、若しくは、さらに生まれる疑問、好奇心をさらに探求する事を繰り返す事が知識になり、結果、人は成長してきました。
 先ほどから私が頻繁に多用している「きっかけ」という言葉は、まさに人それぞれであり、言葉で説明できるようなものではありません。しかし、J C の事業で多くのきっかけを地域の人達に与えることは出来ます。そして同様に私達も得ることが出来ます。そのきっかけから得た興味・好奇心を知識までつなげる手助けをする事業を先導して行い、その知識を、責任を持って他のきっかけに紡ぐことを地域全体に共有することが出来るもとみや青年会議所でありたいのです。この動きを継続することが未来を想像し創造するまちづくりだと考えています。

地域を巻き込む勇気を持った会員の育成・拡大

 2024年度、もとみや青年会議所の期首会員数は2 1 名でスタートします。2022 年度の大幅な会員拡大と対照的に2023 年度は新入会員が2名のみという結果で終わってしまいました。
 そこで2024 年度はメンバーそれぞれが生業とする仕事を無理なくこなし、家族と過ごす時間やプライベートの時間への影響を少なく出来るように会議体や運営方針を刷新し、出来る限り負担を低減する事で現メンバーのJC 活動のみならず、会員拡大をし易い環境を作る事を念頭に置いています。メンバー全員の声が届く“もとみや”らしい“もとみや”の為の組織として生まれ変わり、手応えのある地域貢献を実現しようとメンバー一致団結し臨んでいきます。もちろん、先輩方が作られてきた歴史には最大限リスペクトをしつつも2 024 年現代に合った思想ややり方で継続・持続できるJC を構築していきたいと考えています。
 尚且つ、ここまで述べてきた通りの理念を、自信と勇気を持って発信し、賛同する仲間を積極的に発掘していきます。目先の数字や結果は一切除外し、長期的な目線で未来の“もとみや”を見据えることが出来る人財を育成し発掘する事がJC の地域認知度と存在価値を恒久的に維持する原動力になると信じています。
 地域を巻き込む勇気が自信につながり、その人達それぞれの声が地域の未来を形成するのです。

結びに

 これほどまでに、自分の生まれ育った地域とそこで暮らす人々と向き合い、想いを馳せたのは2011 年の東日本大震災発生以来、無かったでしょう。いや、あの頃から抱いていた気持ちが現在まで私の中でつながって現在に至っているのかもしれません。当時は東京に居て、まだ若く、自分自身の生活で精いっぱいな日常の中、故郷が窮地に追い詰められている現状に歯が立たず、ひたすら心に空白が出来る日々でした。その故郷に対する空白の感情は福島に戻り、家業を受け継ぎ、家族が増え、そしてJ C と新しい“もとみや”の仲間たちと出会い、今度は自分達の手で地域を動かせる事に感慨が溢れてきます。
 ハイブリッド世代の私達にしか出来ないことがあり、それを体現し実現出来るのはJC にしかないと信じています。JC に入会したのも、理事長をやると決意したのも「自分」です。ただ、地域を考えるこの気持ちを終わらせるつもりはありません。

 私という「きっかけ」が、この1 年間、その先も、出会う全ての人に希望をもたらす起点となる事を祈っています。

 最後に、私と活動を共にしていただけるメンバーの皆様に感謝の意を表します。この選択をした自分と仲間たちを信じ、1 年間よろしくお願い申し上げます。

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